背景
生物には、見た目や行動、性格などのさまざまな側面に種内の多様性があります。このような多様性が集団の増殖率や安定性を高めたりすることは知られていました。私のこれまでの研究においても、アオモンイトトンボの雌の色彩多様性が集団の増殖力を増大させること(Takahashi et al., 2014)や、キイロショウジョウバエの種内の行動多様性が集団の増殖率や安定性を増加させること(Takahashi et al., 2018)が明らかになっています。しかし、各生物の繁栄や衰退に与える影響は十分にわかっていませんでした。そこで、本研究では、種内の色彩(体色や翅色)の多様性が種のグローバルなスケールでの分布範囲や絶滅リスクに与える影響を種間比較法により検証しました。
方法
色彩多型種が高い割合で出現するイトトンボ類の3属とモンキチョウ属の昆虫について、属内の各生物種について色彩多型の有無を判定し、さらに地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のデータベースあるいは図鑑の情報から分布の広さを推定しました。また、脊椎動物については、多型の有無と分布環境幅をまとめた既存のデータを解析に用いました。これらのデータをもとに、種間の系統関係を考慮した種間比較解析を行ない、種内の多様性が分布環境幅や絶滅リスクに与える影響を評価しました。
結果
いずれのグループにおいても、色彩多型種のほうが単型種よりも分布域が広いことがわかりました。また、多様性のある種のほうが絶滅リスクが低いことが明らかになりました。色彩多型種は分布域を拡げることで絶滅リスクの低めていると推測されます。
考察
以上の結果は、種内や集団内の色彩の多様性が種レベルでの繁栄や衰退の程度に影響を与えることを示しています。体色の違いは、利用する餌や環境の違いをもたらすことが知られているので、種内に色彩多様性が種内での競争が緩和されたり、新たな環境への進出が可能になることで分布範囲が拡大したと考えられます。本研究は種内の多様性が種の安定的・持続的な繁栄に寄与していることを示しています。これは、生物の保全・保護における多様性の重要性を示すとともに、多様性のない種に対する優先的なケアを行なうための指針になるとも期待されます。
論文情報
Takahashi, Y. and S. Noriyuki (2019) Color polymorphism influences species’ range and extinction risk. Biology Letters, in press