個性の多様さが集団の生産性を高める

背景

種の多様性が群集や生態系の生産性を高めることは多くの研究で明らかになっている。一方、集団内の多様性の機能については、いくつかの研究例があるものの、その結論には一貫性がない。集団内の多様性は集団の生産性などを高める場合もあるが、そうならない場合も少なくない。種内や集団内の遺伝的な多様性や個性の生態的な機能は充分に理解されているとは言い難い。

キイロショウジョウバエには、行動に種内多型があることが知られている。一つのタイプは餌を探索する際に活発に動きまわるタイプ(Rover型)で、もう一方のタイプがあまり動かずに採餌を行なうタイプ(sitter型)である。これまでの研究で、このような行動の個性は一つの遺伝子座に支配さていることが知られている。また、資源競争の厳しくなる低栄養条件では、少数派が生存上有利になるが、高栄養条件では、少数派の有利性が存在しないことが知られている。すなわち、低栄養条件では多様性が共存するための原動力が存在することを意味する。

キイロショウジョウバエの2つの表現型。一つのタイプは餌を探索する際に活発に動きまわるタイプ(Rover型)で、もう一方のタイプがあまり動かずに採餌を行なうタイプ(sitter型)である。

目的

本研究では、まず、簡単な数理モデルにより、少数派の有利性が存在する条件と、そうでない条件における多様性の機能の違いを予測している。その後、キイロショウジョウバエを用いて、低栄養条件(多様性が共存できる条件)と高栄養条件(多様性が共存できない条件)において2つの個性を単独、あるいは混合した状態で飼育する実験を行ない、多様性が集団の生産性に与える影響を調べた。

結果

数理モデルを用いて、2つの表現型(個性)が存在する状況において、少数派の有利性がある(自身と同じ表現型の割合が増加するとともに生存率が低下する)条件と、そうでない条件(自身と同じ表現型の割合が変化しても自身の生存率が変化しない)で、個性の多様さが集団全体の生存率がどのように変化するかを予測した。その結果、少数派の有意性がある条件では、個性が多様な状況(2つのタイプが均等に混合している状況)で集団全体の生存率(あるいは増殖率)が最大になり、どちらか一方の表現型しか存在しない状況で集団全体の生存率が最小になることを明らかにした。一方、少数派の有利性が存在しない状況では、2つの表現型がどのような割合で混ざっていようとも(単独の場合も含む)集団全体の適応度が一定であった。

各タイプの割合と各タイプの生存率や集団全体の生存率の関係。オレンジ色の線が上に凸になれば多様性が高いほど集団の生産性が高まることを意味する。少数派が有利になる条件でのみ多様性が高まることの恩恵を受けることができる。

 

キイロショウジョウバエの行動の2型を材料に、少数派の有利性がある条件(低栄養条件)とそうでない条件(高栄養条件)を実験的に作り出し、2つの個性の共存が集団全体の生存率や生産性(=生存した数×個体の重さ)に与える影響を調べた。すると、数理モデルの予測の通り、低栄養条件では、個性に多様性のある集団の生産性が多様性のない集団より高くなったが、高栄養条件では、多様性が高まることによる集団全体の生産性への影響が認められなかった。また、多様性のある集団ほど、栄養条件を変えても安定して高い生産性を保つことも明らかになった。

 

集団全体の生存率。線が上に凸になると、多様性が高いときに集団の生産性が高まることを意味する。少数派の有利性が存在する場合にのみ多様性が集団の生産性を高める効果をもつ。

 

考察

以上の結果は、少数派の有利性が存在し、多様性が積極的に共存可能な条件があれば、多様性が集団全体のパフォーマンスに良い影響を与えることを示唆している。これまで種内の多様性の機能については、一貫したパターンが認められずに混乱を招いていたが、少数派の有利性の存在を考慮することで、このような混乱を終結させることができる可能性がある。また、多様性の機能に関する正しい理解は、生物の効果的な保全や農作物の生産効率の向上、社会での多様性の効果的活用に貢献できると期待される。

掲載誌/Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
掲載年/2018
タイトル/ Balanced genetic diversity improves population fitness
著者/ Yuma Takahashi, Ryoya Tanaka, Daisuke Yamamoto, Suzuki Noriyuki and Masakado Kawata

 

 

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